3.1. インストールプロセスの概要

はじめに、再インストールについて述べておきます。Debian で、システムの完全な再インストールが必要になる状況は、非常にまれです。おそらく、もっともありそうなケースはハードディスクの機械的な故障でしょう。

多くの普通のオペレーティングシステムが、重大な故障が起きたり、OS の新バージョンへのアップグレードの際に、完全インストールを要求するかもしれません。完全な新インストールを要求しなくても、使用するプログラムを新 OS で適切に動かすために再インストールしなければなりません。

Debian GNU/Linux では、うまく行かない場合、OS を取り替えるのではなく修理できるケースの方がはるかに多いでしょう。アップグレードでは大量のインストールは必要ありませんし、常にその場でアップグレードできます。また OS のリリースが続いても、プログラムにはほとんど常に互換性があります。プログラムの新バージョンが、より新しい依存するソフトウェアを要求する場合、Debian パッケージングシステムは、必要なソフトウェアをすべて自動的に識別し、確実にインストールします。再インストールが必要ないように力を尽くしてきており、再インストールをしなくてはならないというのは、最後の手段であるというのがポイントです。インストーラは、既に存在するシステムに対して、再インストールするように設計されていません。

ここでは、インストールプロセスの中で行う処理を一段階ずつまとめておきましょう。

  1. インストールするハードディスクにある、既存のデータや文書のバックアップ。

  2. インストールを始める前に、コンピュータの情報と必要な文書を集める。

  3. ハードディスクに Debian のパーティションに使える領域を確保する。

  4. インストーラソフトウェアと、そのマシンで必要になる、特殊なドライバファイルやファームウェアファイルについて、場所の確認・ダウンロード。

  5. CD・DVD・USB メモリといったブートメディアをセットアップや、インストーラを起動できるネットワークブートインフラの準備。

  6. インストールシステムを起動する。

  7. インストールする言語を選択する。

  8. 可能なら、イーサネットネットワーク接続を有効にする。

  9. Debian をインストールするパーティションを作成し、マウントする。

  10. 自動で行われる 基本システム のダウンロード・インストール・セットアップを監視する。

  11. 追加のソフトウェア を選んでインストール。

  12. Debian GNU/Linux と既存システムを起動するブートローダをインストールする。

  13. 新しいシステムを初めて起動する。

インストール中に問題があったら、どのステップのどのパッケージでつまずいたかを知るお手伝いをします。このインストール劇の、そんな主演ソフトウェア俳優をご紹介します。

インストーラの debian-installer は、このマニュアルの主役です。ハードウェアを検出して適切なドライバをロードし、dhcp-client を使用してネットワーク接続を設定し、基本システムパッケージをインストールするのに debootstrap を実行し、さらに追加ソフトウェアをインストールする tasksel を実行します。このプロセスで多くの俳優が、より小さな役を演じますが、初めて新しいシステムを起動する時に、debian-installer はそのタスクを終えることになります。

システムをお好みに調整するには、tasksel を使用して Web サーバやデスクトップ環境といった、様々なソフトウェアの定義済みセットを選択・インストールできます。

インストール時の重要な選択肢に、X Window System とグラフィカルデスクトップ環境の 1 つからなる、グラフィカルデスクトップ環境をインストールするかどうかがあります。デスクトップ環境 タスクを選択しない場合、比較的基本的な、コマンドライン駆動システムになります。デスクトップ環境は、テキストモードのみのシステムと比べて、かなり大きなディスク領域を必要とし、また、多くの Debian GNU/Linux システムは、グラフィカルユーザインターフェースを特に必要としないサーバであるため、デスクトップ環境タスクはオプションとなっています。

X Window System は、debian-installer とは完全に分かれていて、実際には非常に複雑なことに注意してください。X Window System のトラブルシュートは、このマニュアルでは扱いません。