新しいコンピュータオペレーティングシステム、スペースシャトルに乗る

1997 年 4 月 1 日

根本的に異なった新しいコンピュータオペレーティングシステムが、 三月下旬のスペースシャトルミッションの実験を制御する。 この実験では「水耕栽培」のテストをする。 土壌を使わず宇宙飛行士が時々与える酸素と栄養素で植物を栽培するテストだ。 実験を制御するコンピュータは Debian GNU/Linux を実行する。 Debian GNU/Linux は、互いに一度も会ったことが無い 200 人のコンピュータプログラマのボランティアが、 インターネットを通じ遠隔協力作業で作成したものだ。 このシステムには、実用的な使い道がたくさんある。 パーソナルコンピュータで動作するマイクロソフトの Windows 95 のような伝統的なオペレーティングシステムの代わりに使うこともできる。 伝統的なオペレーティングシステムの慣例に背を向けて、 ボランティアグループはシステムとそのソースコードすべてを無料でわけている。 詳細はこのグループのウェブサイト https://www.debian.org/ で入手できる。

Debian プロジェクトのリーダ、Bruce Perens は以下のように語っている。 「Linux は、ベル研で 1970 年代に開発された Unix オペレーティングシステムのモダンな後継者です。 フィンランドの大学生が 1990 年代のはじめに Linux を作り始め、 システムの開発を助けてくれる人をインターネットで募りました。 私たちは Linux と、他のボランティアが貢献するフリーソフトウェアとを組合せ、 800 のソフトウェアパッケージからなる完全なシステムを作り上げました。 成果はインターネット上で流通しており、 その中には通常は高価なウェブサーバや Java や C、C++ 等のコンピュータ言語などなどといったプログラムが無料で含まれています。」

スペースシャトルの実験は、三月下旬と四月上旬の STS-83 ミッションで飛ぶことになっている。Sebastian Kuzminsky は実験を制御するコンピュータの作業を担当しているエンジニアだ。 この実験は Biosciences 社 (訳注: BioServe Space Technologies 社の間違い?) が実行している。彼はこう語っている。 「この実験は微小重力での植物の成育を調べるものです。 実験では、小っちゃな 486PC 互換機 Ampro CoreModule 4DXi を使います。 Debian GNU/Linux は DOS や Windows の代わりにこのシステムにロードされています。 脆さと電力消費がネックになって、この実験でディスクドライブは使えません。 SanDisk 社のソリッドステートなディスク代替品が代わりに使われています。 システム全体でたった 10 ワットしか消費しません。」 Kuzminsky によるとこれは常夜灯と同じくらいの電力消費ということだ。 「このコンピュータは水耕栽培、つまり土壌なしで植物を育てる実験を制御します。 コンピュータは植物の成育のための水と光を制御し、 植物の遠隔計測値と映像を地上へ送信します。」

教育関係者も Debian GNU/Linux システムになびいている。 Western Carolina 大学の計算機科学の教授、David Teague は 「うちの計算機科学科の研究室ではたいてい Debian が走っています。 プログラミングやオペレーティングシステム、システム管理、 ウェブページのデザインを教えるのに使っています。」 小学校から大学にいたるまで、 生徒が安価にインターネットにアクセスできるようにこのシステムを使っている。

「私たちの大半がコンピュータを職業としています。ですが、私たちは Debian GNU/Linux を趣味のプロジェクトとして作って来ました」と Perens は続ける。 彼は、映画「トイ・ストーリー」を作成した会社で グラフィックスプログラマとして働いている。 「互いに会ったこともない 60 人の人間がインターネットで連絡を取り合いながら、 緩やかな共同作業として三年前にプロジェクトを開始しました。 私たちは、自分たちが利用できるオペレーティングシステムに不満を覚えていました。 使っているコンピュータのハードウェアの開発スピードに ついて行けてなかったんです。 インターネット上でボランティアのプログラマを集め、 今まで大企業だけが作ってきたものをつくり出すことができるほど、 インターネットが大きくなったと感じていました。 私たちが作ったシステムを、 多くの人達が重要な用途に使ってくれたらと望んでいますが、 私たちはウェブページを作るか、 インターネット上でこのシステムの話をするしか宣伝のしようがありません。 何千ものユーザを得るまで長くはかかりませんでしたし、 ボランティアのスタッフが世界中にいる 200 人のプログラマにふくれ上がるのも、 長くはありませんでした。 Debian をインストールするため、 みんなマイクロソフトをシステムから取り除いています。」 今日では、さらに開発を進めるために独自の非営利団体 Software in the Public Interest がシステムの母体となっている。 メンバーは世界のすべての大陸にいる。

「もっと多くのボランティアを得たいと考えています。 また、新しいユーザはいつでも歓迎します」と Perens は語った。 このシステムに興味を覚えた方はグループのウェブサイト www.debian.org にて Debian GNU/Linux について知ることができる。 このウェブサイトでは、システム全体を自由にダウンロードでき、 インストール方法も提供されている。